番頭さんの「蔵元だより」⑥ 水

前回は米についてでした。次は「水」のお話です。

岩国の歴史は錦川流域に刻まれてきました。水源を周南市(旧都濃郡鹿野町)にもって、蛇行しながら岩国市(旧玖珂郡錦町)で宇佐川と合流し、瀬戸内海にむけて流れる山口県一の大河です。その錦川の豊富な水がもたらす恵みが、今も岩国市を支えています。酒造りにはこの水の力が大きく関わっています。

錦帯橋

そこで、今回も番頭さんに聞きました。「日本酒と水」についてです。
日本酒の約80%は水です。水は米と共にきわめて重要な主原料であり、古くから「銘酒は良い水から生まれる」と言われる所以です。銘醸地には必ずと言って良いほど名水が湧いています。醸造期には遠方より名水を買い求める醸造元もあるようで、たかが水とバカにできません。水質の良否が日本酒の品質に影響を与えるのです。

醸造用水の水質基準は非常に厳しく、水道水のそれとは比較になりません。無色透明、無味、無臭等、水道水の水質基準に準ずることはもちろんで、日本酒の品質を著しく劣化させる鉄やマンガンの基準にいたっては下に示す通り、大きな差があります。日本酒業界では、「おいしい水イコール名水」というわけにはいきません。飲んでおいしい水と仕込みに使用できる水は違うのです。

アルコール醗酵にかかわる微生物(麹菌や酵母)が好む水、相性の良い水だけが銘酒になりうるのですから。
醸造用水は「硬水」と「軟水」を抜きにしては語れません。

硬水とはカルシウムやマグネシウムを多量に含んだ硬度の高い水で、灘の宮水が有名です。六甲連山の伏流水が、太古のトリ貝の堆積した地下層をへて、カルシウム等のミネラル分を含有するようです。その硬度は8から9。

また、軟水は硬水の逆で硬度の低い水です。地下層を流れる期間が比較的短期であり、ミネラル分を含有する前に汲み上げられるものです。伏見や広島の水がその代表でしょう、そして、岩国の錦川の水も軟水です。

一般的には、硬水で酒を仕込むと、すっきりした力強い辛口の酒にしあがり、軟水では口当たり良く、柔らかくふっくらした優雅な酒ができると言われています。そのため、灘の男酒、伏見の女酒などと言われ、ここでも水質の差が酒質に影響を与えることが分かります。
たかが水、されど水。名水で仕込んだ銘酒を酌み交わしながら、嫌なこと、つらいこと、全て水に流そうじゃありませんか。

※硬度…100mlの水にカルシウム、マグネシウムが酸化カルシウムとして1mg含まれているときに硬度1と呼ぶ。現在ではカルシウムイオンが1ppm含まれる時、硬度1と表現される。
水道水 醸造用水は、鉄 0.3ppm以下 0.02ppm以下であり不検出が望ましい。マンガン0.3ppm以下  (1ppm=1mg/l)

ちょっと専門的なお話になりましたが、美味しい酒を造る水と、私たちが飲んでおいしいと感じる水は違うということのようです。

それでは、私の住む町岩国の事が知りたいので、「錦川の恵み」についてお聞きしました。
「錦川」、美しい名をもつその川は、山口県内最大の川で、流路延長約110km,流域501平方kmを有します。島根県境の都濃(つの)郡北西部に位置する莇ヶ岳(あざみがだけ)を水源とするその流れは、花崗岩の山塊をくぐってくるせいか、極めて清澄です。五橋の名の由来となった日本3奇橋のひとつ錦帯橋も錦川に架かっており、錦川の美しさに花を添えています。この錦川の河口に発達した城下町が岩国市で、その流れはさらに瀬戸内海へと注ぎます。

清酒「五橋」は錦川の伏流水で仕込まれます。日本酒の権威、故・穂積忠彦先生に超軟水と言わしめたその硬度は1.5。きめ細やかな酒質は、この超軟水の成せる業と言えるでしょう。昭和22年春の全国新酒鑑評会、硬水仕込みが全盛の当時にあって、軟水仕込みでの史上初の一位の栄誉を賜りました。故郷に錦を飾り、錦の川が五橋を飾ったのです。
山口県防府に生まれた漂白の俳人、種田山頭火(1882~1940)はその58年の生涯の中で、宮城県から鹿児島県までを旅し、無数の句を詠みました。
「こんなにうまい水があふれてゐる   ふるさとの水をのみ水をあび   飲みたい水が音たてゝゐた」
など、水を詠った句が非常に多く、水の俳人とも言われています。山頭火はきき水が得意だったようですが、広島電機大の佐々木健氏の研究報告によると、彼の好んだ水はすべて軟水だったということです。酒好きの山頭火が好んだ酒も軟水仕込みだったのでしょうか

水の力は、私たちの命を支え、文化も育ててきました。あらためて自然の恵みに感謝する思いです。

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