五橋文庫開設に当たって

岩国藩は、三代藩主吉川廣嘉公が明の渡来僧 獨立禅師(どくりゅうぜんじ)を
迎えて厚く遇したことにより、日本文墨界に多大な影響を与えました。
殊に篆刻の分野に於いて江戸期の印人を啓発せしめたことは夙(つと)に世に
知られるところです。

このような歴史的背景を有する岩国には、人々が誇れるものの一つとして
文墨、特に篆刻を主体とした文化活動が根づき、今日に至っております。
とりわけ、この地の酒造家酒井佑は岩国の文化向上に熱い思いを抱いており、
自身も印刀を把るほどですが、この度、名橋錦帯橋にほど近い錦川のほとりに
五橋文庫なる施設を造りました。

この発因は、終生禅の道を求めた思想人であり、詩、書、画、篆刻の道をも
極めた小林雲道人翁と、岩国との浅からぬ縁にあります。長子である小林東五氏が
父雲道人の遺作の書画及び旧蔵の古硯、古書画、古印、茶道具、酒器、古書籍等を
一括して寄贈され、当文庫にて酒井酒造に伝わる当地の貴重な歴史資料、書画等と
併蔵する運びとなりました。

雲翁は生前、錦川周辺の景観を殊のほか賞愛し頻繁に来訪したことが幾多の詩に
残っています。歓侍を惜しまなかった地元の方々と玄談を交わし、錦川の伏流水で
醸した酒五橋を欣然と斟まれたといわれます。また、その機縁により長子東五氏も
岩国市内に移られて壮年期を過ごし、酒井佑と出会って共に五橋を酌み交わしつつ
心契を結ばれ、この度の当文庫開設へと連なりました。
請い願わくば、五橋文庫が岩国市の文化向上の一助となり、更に広く江湖諸賢の
清鑒(せいかん)を賜らんことを切に期する次第です。

一般財団法人 五橋文庫