「西湖遊覧志」と錦帯橋、そして独立禅師の篆刻
11月に入ってから、岩国市内の篆刻体験希望者が続いています。芸術の秋にふさわしい今日この頃、錦帯橋周辺の紅葉も深まり、心静かに深まりゆく秋に文化と芸術に親しむ人でにぎわいます。
独立禅師と体験者の印影
杭州の西湖近くには明代にも沢山の文人が集まって、詩を詠み、書を書き、印を彫る会があったようです。その一人が戴笠という明人、日本に渡ってきてからの名が、独立性易となった人です。日本の黄檗宗の開祖となる隠元禅師に弟子入りして、独立禅師は約20年を日本で過ごしました。
その後半になって岩国に医師として招聘され、4回の訪岩国では沢山の文化を残しています。招いた3代吉川広嘉は独立禅師に見せてもらった「西湖遊覧志」に錦帯橋創建のヒントを見つけ、流れないだけではなく、城山を借景とする美しい橋を錦川に架けることになったのです。おそらく、西湖遊覧志にある西湖の白堤と蘇堤に、唐代の詩人・白楽天と宋代の詩人・蘇軾のことを語り合ったのではないかと思います。独立禅師も広嘉公もどちらも詩書画を楽しむ文化人だったからです。
「西湖遊覧志」写し本 (岩国徴古館所蔵)
医師と患者以上に友情を深くした、二人の楽しそうな文化的会話が聞こえてくるようです。
天外一間人摹刻印
錦川の河畔を見ると西湖を思い出したという独立禅師は、岩国横山の秋に故郷を思い出していたでしょうか。
カイノキ
ますます深く色づく紅葉の横山に、篆刻体験のお相手をしながら、独立禅師がここにいたらどんなお話をしてくれるだろうかと思います。西湖周辺に集った文人たちは何を語り合っていたのか物思いにふけるにはもってこいの季節です。