スクープです!吉向焼
平成30年(2018年)9月5日(水曜日) { 日刊いわくに 掲載記事提供 }
吉向松月窯八世・九世 吉川氏との縁も学ぶ 五橋文庫
大阪府交野市で200年の歴史を誇る「吉向(きっこう)松月窯」を構える八世(代目)と九世(代目)の兄弟2人が3日、企画展「岩国藩の御用窯 多田焼展」を開催中の美術館「五橋文庫」(岩国市横山2丁目)を訪ね、吉向松月窯の初代が岩国藩主の招きを受けて設けた同藩の御用窯で手がけた作品などを鑑賞した。
初代の松月は、岩国領10代領主の吉川経礼(きっかわ・つねひろ 1793~1837年)の招きで訪れた岩国の地に吉向窯を設け、作陶技術を手ほどきした縁がある。
兄弟は近くの吉川史料館にも足を運び、江戸時代に岩国を統治した吉川家の歴史の説明を受け、初代出身地である伊予・大洲藩と岩国藩の結びつきが深いことなどを学んだ。
岩国を訪れたのは、父親の七世から襲名した八世の吉向秀治さん(長男)と九世の吉向孝造さん(次男)。熊本市で開く九世の作陶展の会場に向かう途中に立ち寄った。
2人は会場に展示された初代の作品や祖父に当たる六世の作品に注目し、案内した五橋文庫の酒井佑理事長や大石紗蓼館長らに初代が岩国で焼いた作品が米国のボストン美術館に収蔵されていることなどを紹介した。
ボストン美術館に収蔵されている吉向窯初代の作品は、来日したアメリカ人動物学者のエドワード・モースが岩国を訪れた際に手に入れたと推定される。
吉向窯とともに同じく岩国藩の御用窯だった多田焼の作品がボストン美術館に収蔵されている可能性も高まり、多田焼を復興・継承している二代目の田村雲渓さんは「ボストン美術館のホームページをあたってみる価値はある」と現存品が少なく、貴重となっている江戸時代の多田焼が同美術館にあることに期待を寄せた。
酒井理事長は、吉向松月窯の2人の訪問を受けて知った史実に触れ、「岩国に江戸時代から焼き物の文化があったことを伝えていかなければ」との思いを強くして目を輝かせていた。
吉川史料館では隅喜彦・館長代行らが応対に当たり、岩国にモースを呼んだのは、幕末の藩主・吉川経幹(つねまさ)の第三子である吉川重吉(ちょうきち・貴族院議員)であり、大洲藩と岩国藩が姻戚関係にあることなどを説明した。
九世の孝造さんは「これからの人たちに、(焼き物の)歴史を紹介していることに感銘を受けました」と五橋文庫の企画展の内容と充実ぶりをたたえ、「初代のことなど、岩国とのかかわりをもっと調べたいと思います」と再訪を約束した。
吉向松月窯は江戸時代の享和年間(1801~04年)に大洲藩の出身者が京都に赴いて作陶を学んだのが始まり。当時、大坂城代だった水野忠邦の推挙を得て将軍に亀と鶴をあしらった「食籠(じきろう)」を献上したところ、気に入られて「亀甲」にちなんで「吉向」の窯号を賜ったとされる。
企画展「岩国藩の御用窯 多田焼展」の会期は今月24日まで。開館時間は午前10時~午後4時。火・水・木曜は休館日。入場料が一般700円、大学生500円、高校生以下は無料。
問い合わせは五橋文庫まで。電話0827(28)5959。
岩国藩の御用窯 多田焼を手伝うために招かれた吉向治兵衛は約2年間多田焼を作りました。任務を終えて一旦大阪に帰りますが、戻ってきて同じ窯で吉向焼を作りました。初代吉向が岩国の窯で焼いた菓子器や湯飲みなどが展示してあり、同時代のものと思われる吉向焼がボストン美術館に所蔵されているそうです。 館長